富山地方裁判所高岡支部 昭和43年(む)11号 決定 1968年6月01日
主文
富山地方検察庁高岡支部検察官事務取扱検察官副検事見田邦夫が昭和四三年五月三一日付でなした別紙記載の接見等に関する指定は、これを取消す。
理由
一本件申立書の要旨は「被疑者は、暴力行為等処罰に関する法律違反、暴行被疑事件により、昭和四三年五月二三日逮捕され、同月二五日勾留されて現在に至つているものである。しかして、右被疑事件の捜査官である検察官見田邦夫は、同月三一日別紙記載の指定書に基き刑事訴訟法三九条三項の接見等に関する指定をなした。しかしながら、右指定は、刑事訴訟法三九条一項に規定する弁護人と被疑者との接見交通の自由を一般的に侵害するものであり、違法な処分として取消さるべきものであるというのである。」
二よつて、以下事実調べの結果に基き検討するに、被疑者は、昭和四三年五月二三日暴行被疑事件によつて逮捕せられ、同月二五日暴行、並びに、暴力行為等処罰に関する法律違反被疑事件によつて富山警察署に勾留され、同月二七日高岡警察署に、更らに同月三一日高岡拘置支所に、身柄を移監されたこと、右勾留と同時に裁判官により接見等の禁止決定がなされ、次いで前記検察官により別紙記載の指定がなされたこと、右検察官は被疑者弁護人菅井俊明の請求に基き同年六月三日午前一〇時から同一一時までの間に二〇分間接見交通ができる旨の指定をなしたことが認められる。
そこで、先づ、別紙記載のごとき検察官による一般的な接見交通の禁止が刑事訴訟法三九条三項の処分として準抗告の対象となし得るか否かにつき判断するに、検察官によつて被疑者の勾留当初から右の指定がなされると、同法三九条一項に基き、身柄を拘束された被疑者の防禦準備のため、原則として自由に被疑者と接見交通をなし得る弁護人若しくは弁護人となろうとする者は、検察官によつて具体的な接見交通の指定がなされるまでは全面的にその接見交通が禁止され、その結果、弁護人若しくは弁護人となろうとする者は検察官による具体的な指定を待つて、その指定された日時時間の範囲内においてのみ被疑者と接見交通をなし得るにすぎないこととなる。してみると、検察官による右の一般的な指定によつて、被疑者の防禦権は著しく制限され、且つ又弁護人の弁護権は重大な影響を受けることとなる。従つて、前記検察官のなした前記指定は同法三九条三項の処分として準抗告の対象となり得るものといわねばならない。
次に、本件の前記指定が違法であるか否かにつき判断するに、刑事訴訟法三九条は、被疑者の防禦準備を全うさせるため、弁護人若しくは弁護人となろうとするものに対しては被疑者との接見交通の自由を原則として保障し、ただ捜査官の必要上例外的に同条三項規定の捜査官が右接見交通を具体的にその日時、場所、時間を指定して制限できる旨規定したものと解される。従つて、右捜査官の指定は、弁護人若しくは弁護人となろうとする者および被疑者の利益を充分に尊重して制限する日時、場所を規定すべきであつて、(例えば何月何日の何時までというように、合理的な範囲内で接見交通を制限する日時、場所を明示すべきである)本件の如く一般的に接見交通を制限し、接見交通できる日時を例外的に許可するようなことは、前記刑事訴訟法の法意に照ら、原則と例外を逆にするもので違法といわなければならない。
三以上の次第で、前記検察官のなした本件指定は違法であるからこれを取消すこととし、刑事訴訟法四三二条、四二六条二項に従い、主支のとおり決定する。(定塚孝司)